視覚障害者の生活を助けてくれる身近で便利な文字・点字について紹介!

人間は会話や文章などさまざまな手段を用いてコミュニケーションをとっています。しかし、身体面に障害を抱えているとコミュニケーション手段が限られる場合もあります。視覚障害を抱えている場合は文字や文章を扱えないため、読書や筆談など多くの分野で問題が生じてきました。
視覚障害者でも扱えるように作られた文字が「点字」です。決まった形に突起を並べて、指の触覚により文章を読み取ります。日常生活でも頻繁に見かける点字について、主な特徴を知っておきましょう。この記事では視覚障害者の生活を支える点字について、概要や課題点などを紹介します。
点字とは
点字は視覚障害者のために開発された文字で、直接見ずに読み書きを行えるものです。6つの点をさまざまな形に組み合わせて、「墨字」と呼ばれる通常の文字に1文字ずつ対応させています。世界中の各言語にあわせて点字が用いられており、言語によって同じ組み合わせでも異なる文字を表す場合があります。
点字を使えば視覚に障害があっても文章によるコミュニケーションがとれるため、読書・案内表示・選挙の投票など非常に多彩な場面で用いられます。近年ではIT技術の進歩によって点字を使わずに対応できる場面も増えました。しかし、点字ならではの利点や点字に対応する電子機器などによって現在でも点字が活用されています。
以下では点字の歴史や使用方法などを紹介します。
メリット
点字が持つ大きなメリットは視力に頼らず文章の読み書きを行える点で、点字が作られた理由でもあります。視覚障害を抱えていても文章を扱えるため、ハンディキャップを補って文面でのコミュニケーションが可能です。文章を読めれば非常に多くの物事を学習しやすくなります。視覚障害者が十分な教育を受けるために、点字が大きな助けとなるでしょう。
点字の活用はプライバシー保護の面でも有用です。目が見えないと点字なしでは文面での記録が行えず、プライベートな文書の管理もほかの人に頼まなくてはなりません。点字を用いれば自分だけで文書管理できるため、個人情報をほかの人に知られるリスクが軽減されます。
歴史
現在用いられている点字は1825年にフランスのルイ・ブライユ(Louis Braille)が考案しました。ブライユは幼少期のケガで失明しており、学生時代に「目が見えなくとも扱いやすい文字を作りたい」と考えました。夜間でも読める暗号として軍用に用いられていた文字を改良して、視覚障害者でも読み書きしやすい点字を作り上げています。現在でもフランス語では点字を「braille」と呼んでいるほか、英語・スペイン語・ロシア語など多くの言語でブライユの名前が語源になっています。
日本では1887年にローマ字用の点字が初めて用いられて、1890年に石川倉次が日本語用の点字を考案しました。石川の点字はアルファベットの代わりにかな文字を点の組み合わせに対応させています。一方で、数字の表記はブライユの点字と同じ組み合わせが採用されました。
参照:点字の誕生 | 日本点字委員会
点字の概要 | 社会福祉法人ほくてん 北海点字図書館
日本語での読み方
日本語の点字では基本的な50音をすべて6点の組み合わせで表現されます。
点字の各点は左上から下に向かって1~3の番号が割り振られています。右の3点も同じく、上から下に4~6で表されます。基本的には1・2・4の3点を使って母音の5音が表現されて、残りの3・5・6で子音を表現します。母音・子音それぞれの組み合わせによって、ローマ字表記のように対応する音が決まる仕組みです。ヤ行とワ行は例外です。ア行の組み合わせを一番下まで下げたものがワ行として用いられて、ワ行に4番の点を追加したものがヤ行となります。濁音・半濁音・拗音などは、50音を表す6点の前に別の6点を並べて表現します。
数字は3~6の点で表す数符を前につけて表現します。4ケタまではそのまま並べて、万・億などは読みをかな表記します。アルファベットは5・6の点で表す外字符が必要です。基本的には小文字として認識されるため、大文字を示す場合は6番の点で表す大文字符を追加します。
点字はすべてかな文字で表記するため、読みやすさを考えて言葉のまとまりごとにスペースを空ける「分かち書き」が用いられます。使用する文字も少々異なります。助詞の「は」「へ」は「わ」「え」と発音に従って書き、伸ばし音は2・5の点で表す「―」を使用します。
点字はUnicodeに登録されており、コンピュータ上でも表示可能です。日本語の点字による単語や文章の例として、以下のように表されます。
・点字(てんじ):⠟⠴⠐⠳
・視覚障害者(しかく しょーがいしゃ):⠳⠡⠩⠀⠈⠺⠒⠐⠡⠃⠈⠱
・点字は1825年にLouis Brailleが考案しました。(てんじわ 1825ねんに Louis Braille が こーあん しました。):⠟⠴⠐⠳⠄⠀⠼⠁⠓⠃⠑⠏⠴⠇⠀⠰⠠⠇⠕⠥⠊⠎⠀⠰⠠⠃⠗⠁⠊⠇⠇⠑⠀⠐⠡⠀⠪⠒⠁⠴⠀⠳⠵⠳⠕⠲
参照:点字を読んでみよう | 日本点字委員会
eBraille
書き方
点字を紙に書く場合、マスごとに区切られた「点字器」という板と針のような「点筆」が用いられます。紙を点字器で抑えつつ1文字ごとの区切りをわかりやすくしてから、点を1つずつ点筆で打っていきます。点字用の紙も一般的なものより厚みがあり、点字が潰れづらいよう工夫されているものです。
点字は左から右に読みますが、書く際は逆に右から左へと進める必要があります。点の配置も読む場合と反転させるため、点字での執筆にはある程度慣れが求められます。現代ではパソコン上で使える点字入力ソフトも提供されており、パソコンを使えるならば手書きより非常に速く執筆可能です。
点字の課題点
点字は視覚にハンディキャップを抱えていても文章を扱える便利な文字ですが、一般的な文字と異なる構造のため難点もみられます。特に漢字を多用する日本語の場合は点字との違いが大きくなりやすく、点字ならではの問題が生じる可能性もあります。点字を効果的に扱えるように、点字が抱えている課題点も把握しておきましょう。点字の主な課題点を以下で紹介します。
文字を覚える必要がある
点字を使用するために文字を覚えなくてはならない点が大きな課題です。6つの点の組み合わせで表現する点字と一般的な墨字とでは構造が大きく異なり、習得のために少なくない時間を要します。特に点字習得を求められる視覚障害者は高齢者が多く、点字の学習機会をあまり得られずに各種病気で視力を失うケースが少なくありません。また、人によってはまったく見えない状態からの点字習得が求められる場合もあります。各点字の形をまったく見られないため、習得の難易度がさらに上昇するでしょう。
点字習得の一助になりうる要素として、「Braille Neue」のようなフォントが挙げられます。日本語点字の各文字と対応する墨字を重ね合わせたもので、視覚障害の有無を問わず同じ文字から内容を読み取れます。Braille Neueで墨字と点字を普段から同時に見ておけば、万が一視覚障害を抱えて点字習得が必要になってもスムーズに習得できるでしょう。
文章が長くなる
多くの場合、点字で文章を執筆すると同じ内容の墨字より長い文章になるため要注意です。日本語の点字は基本的にかな文字や英数字などしか使えず、漢字を使用できません。漢字を使えない文章は文字数が増えて長くなり、読解速度の低下につながるおそれもあります。学生が点字の教科書を持ち歩く場合は重量にも注意が必要です。文章が長い書籍はページ数の増加による重量増加につながりやすく、点字の教科書も墨字の教科書より重くなる可能性があります。
点字の文章が長くなりやすいため、面積あたりの情報量が少なくなる問題も生じます。家電のボタンや街なかの案内板など、多くの面積を確保できない場所では点字で十分な説明を行えないケースもあります。
同音異義語の区別が難しくなる
日本語を点字で表すと同音異義語の区別をつけづらくなる、という点も問題です。日本語には多くの同音異義語があり、通常は文脈や漢字表記の違いなどで区別しています。点字で表すと漢字を使えないため、同音異義語の区別がつかず文の意味を誤解するおそれもあります。点字で文章を書く際には可能な限り同音異義語を使用しない配慮が必要です。
点字の文章で同音異義語を使用する場合、「点訳注」と呼ばれる補足説明を用いる場合もあります。同音異義語の直後に挟み、ほかの単語と区別できるよう短く説明します。「頬部と胸部」という文であれば「きょーぶ(ほおの ぶ)と きょーぶ(むねの ぶ)」のように記載します。説明部分を囲む()は、点字の場合「点訳挿入符」と呼ばれる記号を用います。
点字以外に用いられる視覚障害者向けのサポート
視覚障害者の生活やコミュニケーションなどをサポートする方策は、点字以外にも複数用いられています。ハンディキャップを抱えつつも安全・快適な生活を送れるように、場面に応じたサービスを利用しましょう。サービスによっては視覚障害者以外にも有用なものもあります。利用方法や効果的な機会などを把握しておきましょう。視覚障害者の生活に役立つ点字以外の主なサポートを以下で紹介します。
点字ブロック
点字ブロックは地面に設置される突起つきのプレートです。正式には「視覚障害者用誘導ブロック」というもので、突起の向きと形で安全に歩行できる場所や停止すべき場所を教えてくれます。視覚障害者の安全・快適な移動を支援すべく1967年に岡山県で初めて設置されて、交差点や駅などを中心に全国へと広まっていきました。当初はさまざまな形の点字ブロックが設置されていましたが、2001年に統一規格が設けられています。2012年に日本での規格が世界標準となり、現在も世界中で普及が進んでいます。
点字ブロックは突起が線上の「誘導ブロック」と点状の「警告ブロック」に分けられます。各突起を白杖や足の裏で感知して、基本的には誘導ブロックの線に沿って歩きます。警告ブロックは階段・横断歩道・エレベーターなどの前に設置されているため、感知したら一時停止して前方への注意が必要です。色も原則として黄色に統一されています。地面との違いをわかりやすくして、視力が低くとも見つけやすくするための工夫です。
参照:点字ブロックについて | 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合
音声解説
視覚による情報を補うために音声での解説が用いられます。冊子・テレビ番組・Webサイトなど文字や映像を用いる多くの場面で、音声によって文章を読み上げたり映像の情景を解説したりします。音声データが入っている専用端末を使用したり二次元コードから音声データを読み取ったりと、サービスの提供方法は多彩です。
博物館や美術館などでは特に音声解説が役立ちます。展示物の解説を聞く場合、画一的な内容にするだけでなく大人向け・子供向けのように内容を分けて理解しやすくできます。観覧ルートやトイレ・エレベーターなどの場所も音声で伝えられるでしょう。視覚障害者だけでなく健常者にとっても音声解説は有用なサービスです。
音声入力
視覚障害者が文章を書く場合、コンピュータ機器を使っていれば音声入力サービスを用いる選択肢もあります。口頭で話した内容をコンピュータが認識して文章として出力してくれるもので、視覚に頼らずスムーズな文章作成が可能です。視覚障害を抱えていない人でも、手元がふさがっている場合や 歩きながら思いついたことをメモしたい場合など幅広く活用できます。
音声入力によって文章を出力すると、点字ではなく通常の墨字を用いた文章が作成されます。点字の文章と比べて非常に多くの人へと内容を伝えられるため、視覚障害の有無を問わず幅広く内容を伝えたい場合に役立つでしょう。
点字図書館
点字を用いて多くの知識や情報を集めたい場合は「点字図書館」の利用が効果的です。点字図書館は身体障害者福祉法に基づいて全国に設けられている施設で、点字刊行物や録音物などを利用できます。基本的に視覚障害者のみ登録・利用可能ですが、さまざまな書籍を読んだり借りたりと一般的な図書館と同じ感覚で利用可能です。
全国の点字図書館は「サピエ」というネットワークでつながっており、点字や録音を用いた図書データを共有しています。サピエは登録後にインターネットから利用可能です。データベースに登録されている多数の書籍データをダウンロードして、自宅からでも容易に閲覧できます。視覚障害を抱えていても多くの情報を得られる手段として、点字図書館とサピエの利用を積極的に検討してみましょう。
参照:身体障害者福祉法 第三十四条 | e-Gov
サピエ公式サイト
まとめ
視覚障害者の生活を支える点字について、概要や課題点などを紹介しました。200年前に生まれた点字は世界中に広まり、非常に多くの人の生活を支援してきました。現代の人間の生活には文字が欠かせません。視覚障害を抱えていても使用できる文字として、点字は重要な存在です。
課題点の存在や代替手段の増加により、近年では点字を使わないケースも増えています。しかし、これまでに点字で記されてきた多くの書籍を読むためには点字のスキルが必要です。より幅広い情報を得る手段として、今後も点字の活躍は続くでしょう。