障害者の職業訓練について解説!利用できる施設や学習できる内容も!

昔から大半の人は何らかの職業に就いて働いており、就職前や業務のなかで各種のスキルを習得しています。一方で、さまざまなハンディキャップを抱える障害者はスキルの習得が難しい傾向にあります。就職活動を成功させづらいため、実務の経験も十分に積めないケースが少なくありません。
障害者がスキルを習得するためには福祉サービスの活用が重要です。有用なサービスの一つとして「職業訓練」が挙げられます。実務上役立つ各種のスキルを学習できるため、就職活動やその後の業務に役立てられます。この記事では障害者が受講できる職業訓練について、利用可能な施設や内容などとあわせて紹介します。
障害者の職業訓練について
障害者は生活や仕事などにさまざまなハンディキャップを抱えており、就職しづらい傾向があります。障害者が就職の可能性を上げる手段として職業訓練の受講が効果的です。公的機関や民間企業が提供しているサービスで、就職に役立つ各種スキルを低コストで習得できます。健常者向けにも提供されていますが、障害者は特に大きな恩恵を受けられるでしょう。職業訓練について以下で詳しく解説します。
職業訓練とは
職業訓練とは、求職者が就職に役立つ各種スキルを習得するために講座を受講できる制度です。スキルの習得によって就職活動を進めやすくなるため、就労して安定した生活を送りやすくなります。
厚生労働省の主導により実施されている制度で、運営は主に都道府県や民間企業が行っています。都道府県が実施する職業訓練は「公共職業訓練」と呼ばれており、雇用保険の受給者が対象です。「ハロートレーニング」と呼ばれる場合もあり、受講にはハローワークでの申し込みが必要です。対して民間企業による職業訓練は「求職者支援訓練」で、都道府県から委託を受けて実施されます。雇用保険を受給できない人が対象です。
公共職業訓練・求職者支援訓練ともに受講者の就職を目的としているため、講座の開講に加えて就職先の紹介も受けられます。多方面から就職のサポートを受けられるため、独力よりも就職しやすくなるでしょう。
受講費用
職業訓練の受講費用は講座や自身の状況によって異なりますが、1年以内に終わるものであれば原則無料で受講できます。テキストや作業着などのみ購入すれば、ほぼ金銭的負担なくスキル習得が可能です。「就職のためにスキルを習得するお金がない」という場面で大いに役立つでしょう。
人によっては給付金を受け取りながら職業訓練を受けられる場合もあります。「求職者支援制度」という制度により、条件を満たせば月10万円の生活支援を受けつつ無料の職業訓練を受講できます。主に雇用保険を受給していない人が該当します。職業訓練を受けたい場合はハローワークで相談してみましょう。
参照:■受講費用はどれくらいかかるの? | ハローワーク
求職者支援制度のご案内 | 厚生労働省
障害者も健常者向けの職業訓練を受講可能
職業訓練は健常者向け・障害者向けの両方が設けられていますが、障害者でも健常者向けの訓練を受講できます。地域によって障害者向けの訓練には設けられていない分野の訓練を受けられる場合もあるため、就職したい業種や分野を考えて選びましょう。雇用保険や求職者支援制度などの利用も可能です。
障害者向けの職業訓練は、健常者向けと比べて障害者への配慮が充実しています。特に健常者向けの職業訓練は遅刻や欠席に厳しい傾向がある点に注意しましょう。学校のように毎日通所・受講する必要があるため、障害特性により難しい場合は障害者向けの職業訓練がおすすめです。
障害者の職業訓練を実施している公共施設
障害者が職業訓練を受けられる施設は全国に多数設けられています。知識や技術の習得から企業就職・安定雇用の維持まで、就労に役立つさまざまな支援を受けられます。健常者向けの支援施設も多く存在しますが、障害者でも利用できるため候補に含めてみましょう。障害者の職業訓練を実施している主な公共施設を以下で紹介します。
障害者職業能力開発校
全国に多数設けられている職業能力開発校のうち、障害者を対象に設置されている職業訓練施設です。障害特性により健常者向けの訓練を受講しづらい人が対象で、障害への配慮を受けつつスキル習得を目指せます。障害の種類によって受講可能な分野が異なる場合もあります。
障害者の職業能力開発校は全国19都市に設けられており、うち13ヶ所を国が設置しています。なかでも埼玉県と岡山県に設けられている職業リハビリテーションセンターは「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」が運営しています。どちらも幅広い分野の訓練を受けられる施設です。障害者の職業能力開発校の例として以下のものが挙げられます。
- 国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)
- 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(岡山県吉備中央町)
- 北海道障害者職業能力開発校(北海道砂川市)
- 東京障害者職業能力開発校(東京都小平市)
- 京都府立京都障害者高等技術専門校(京都府京都市)
職業能力開発促進センター
再就職を考える求職者や中小企業の労働者などを対象に各種の職業訓練を行う施設です。「ポリテクセンター」とも呼ばれており、東京都を除く46道府県に設けられています。金属加工やCAD技術など「ものづくり」分野を中心に扱っており、ものづくり現場で必要な技術・知識の幅広い習得が可能です。座学や実習だけでなく企業での現場体験を受けられるコースもあり、体験先の企業にそのまま就職するケースもみられます。
職業能力開発促進センターは全国各地に設けられており、比較的通所しやすい点もメリットです。設置されていない東京都には「都立職業能力開発センター」が複数設けられているため、そちらの施設を利用しましょう。職業能力開発促進センターの例として以下のものが挙げられます。
参照:職業能力開発促進センター(ポリテクセンター) | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
都立職業能力開発センター | 東京都TOKYOはたらくネット
職業能力開発大学校
高校卒業者を対象として、中小企業のものづくり技術を中心にさまざまな分野・技術を習得できる施設です。「ポリテクカレッジ」とも呼ばれており、一般的な大学と異なり厚生労働省が所管しています。専門課程と応用過程を2年ずつ学び、一般的な大学と同じように4年間で卒業です。2年間で卒業する短期大学校も設けられています。
卒業までに年単位の時間がかかるほか、学費も国立大学と同程度に求められます。利用のハードルは低くありませんが、卒業できれば「高度な技術を持っている大卒・短大卒」として高確率で就職できます。各地方に設けられているため、身近な施設を確認しておきましょう。職業能力開発大学校の例として以下のものが挙げられます。
参照:ポリテクカレッジ
障害者の職業訓練施設で学べる内容
職業訓練施設では就職活動や就職後の業務に必要な各種のスキルを習得できます。内容は施設によってある程度異なりますが、特に事務作業や図面作製などは多くの施設で学習可能です。通いたい訓練施設がある場合、早めに受講可能な内容を調べておきましょう。なお、社会人として必要なビジネスマナーは多くの訓練施設で学習できます。以下では職業訓練施設のうち、特に障害者の訓練施設で学べる主な内容を紹介します。
事務作業
OA機器の操作や会計作業など、事務職の業務に求められる技術を学べます。ビジネス文書の作成やデータの表計算処理を行ったり会社の決算を整理したりと、多方面に幅広く活用できるスキルです。スキルを習得できれば多くの就職活動や業務に役立つでしょう。事務職は大半の会社で求められるため、就職できる会社の幅も広がります。障害者採用の求人には事務職が多い点も追い風です。
資格の面では主に表計算検定や簿記検定などの取得が期待できます。就職活動への中間目標として積極的に学習しましょう。
図面作製
建築物や工業製品の図面を作製する技術を学べます。基本的にCADを用いて、パソコンのソフト上で図面を描いていきます。CAD操作にはある程度のパソコン使用スキルも求められるため、パソコンの扱いにも慣れられるでしょう。CAD使用スキルは建築会社や部品メーカーなど幅広い会社で求められます。図面作製を学べば就職先の候補も広げられるでしょう。
資格としてCAD利用技術者検定や建築CAD検定などを取得できます。どのような分野に進みたいかを考えて選びましょう。
ものづくり技術
各種工業製品を作るものづくり技術を学べます。CADでの図面づくりに加えて、図面をもとに材料を加工したり組み立てたりして製品として仕上げていきます。NC工作機械や3Dプリンターなど幅広い機械の使用スキルも磨けるため、ものづくりの最先端で活躍できる素地を身につけられるでしょう。製図・材料加工・組み立てというものづくりの流れを新しい環境でしっかりと理解できます。
資格の面ではCAD利用技術者検定や機械関連分野の技能検定などを取得できます。ものづくり分野で働いていくために必要な技術力をまんべんなく示せるでしょう。
プログラミング
コンピュータシステムの設計や運用に必要なプログラミング技術を学べます。情報技術の基礎からプログラミング言語の習得、マイクロコンピュータへの組み込みなど幅広いスキルを習得できます。IT業界は深刻な人手不足に悩まされているため、職業訓練でスキルを磨いた求職者は就職活動を有利に進めやすくなるでしょう。
資格として情報技術者やプログラミング能力認定試験などを取得できます。IT業界は障害者でも比較的働きやすいとされます。資格を取得すればより一層就職しやすくなるでしょう。
デザイン
DTPやWebサイトなど各種媒体のデザインに用いる技術を学べます。デザインや印刷の基礎を学習して、デザインソフトの活用やWebサイトの作成などまでスキルを伸ばします。デザインは非常に広い範囲で用いられるため、就職活動においても選択肢を広げられるでしょう。制作物をポートフォリオとして使用できる点もメリットです。
資格の面ではDTP技能検定や色彩検定などを取得できます。デザインスキルを磨いて多くの顧客を集められる実力をつければ、将来的にフリーランスとして働ける可能性もあります。
まとめ
障害者が受講できる職業訓練について、利用可能な施設や内容などとあわせて紹介しました。就職活動に役立つスキルを習得できる職業訓練は、さまざまなハンディキャップを抱える障害者にとって特に重要なサービスです。入学金や授業料などのコストがかからない場合も多いため、障害を抱えつつ就職したい場合は積極的に利用を検討してみましょう。
職業訓練で習得できるスキルは事務作業や図面作製など現場で役立つものが中心です。学んだスキルで実務の経験を積み、さらなるスキルアップを行いましょう。障害のハンディキャップよりも高度なスキルを習得できれば、障害者でも社会人として大いに活躍できるでしょう。