北海道の地名の由来を紹介!身近な地名の成り立ちを調べてみよう!

日本全国の土地にはさまざまな地名がつけられており、それぞれバラエティ豊かな由来が存在します。特にアイヌ民族と開拓者が多くの地名をつけた北海道では、他都府県と異なる独特な地名が多くみられます。北海道ならではの地名の由来や多く用いられるアイヌ語の単語を把握して、身近な地名から新たな発見をしてみましょう。この記事では北海道の地名の主な由来と、多く用いられるアイヌ語の単語を紹介します。
北海道の地名の由来
北海道各地には多くの地名があり、それぞれ多彩な由来が存在します。多くはアイヌ語の地名に由来しており、市町村名の約8割がアイヌ語由来です。開拓者が故郷を想ってつけた名前や、その他さまざまな理由でつけられた日本語由来の地名もみられます。身近な地名がどのような由来を持っているか調べてみましょう。以下では北海道の地名の主な由来について詳しく解説します。
アイヌ語への当て字
北海道の地名として、アイヌ語の音に漢字をあてたものが非常に多くみられます。北海道各地で暮らしていたアイヌ民族の人々は、地形や植生などから周辺地域に地名をつけていました。入植してきた和人がアイヌから地名を聞き、日本語でもなじみやすいよう漢字をあてていきました。
別の言語の音にあわせて漢字をあてているため、基本的に漢字の意味とアイヌ語の意味は一致しません。漢字の読みとアイヌ語での発音があまり一致しない場合も多く、北海道に多くの「難読地名」が存在する原因になっています。アイヌ語地名のうち一部分だけが日本語地名として用いられているケースもあります。
アイヌ語への当て字で生まれた地名の例として以下のものが挙げられます。
- 札幌:「サッポロペッ(乾いた広い川)」「サリポロペッ(大きな湿地帯)」に由来するとされます。
- 小樽:「オタオルナイ(砂浜の中の川)」に由来するとされます。
- 釧路:「クシュル(通路)」「クッチャロ(のど元=湖)」「クスリ(薬=温泉)」に由来するとされます。
参照:「さっぽろ」の地名の由来は? | 札幌市
市の概要 | 小樽市
釧路市 | 釧路総合振興局
アイヌ語の和訳
アイヌ語の地名を日本語に訳して新しい地名としたパターンも存在します。アイヌ語に由来する地名の多くは音に漢字をあてて用いられます。一方、音でなく意味に従って対応する日本語を地名としたパターンです。
和訳してつけられた日本語地名のため、北海道で多くみられる当て字地名と比べて読みやすい点が特徴的です。地名によっては誤訳や聞き違いが発生して、元のアイヌ語地名と異なる意味になっている場合もあります。
アイヌ語の和訳で生まれた地名の例として以下のものが挙げられます。
- 滝川:「ソーラプチペッ(滝のかかる川)」に由来するとされます。
- 森:「オニウシ(樹木の多くあるところ)」に由来するとされます。
- 旭川:「チュクペッ(秋の川・秋の魚=鮭・波の川という3説あり)」を「チュプペッ(太陽の川)」と解釈したことが由来とされます。
参照:歴史 | 滝川市
森町のあゆみ | 森町
アイヌ語地名の由来 | 旭川市
開拓者の出身地
北海道外からの開拓者が故郷の地名や代表者の名前などをつけたケースもみられます。全国から北海道にやってきた開拓者は各地で集落を作り、少しずつ周辺を開拓していきました。開拓の功績を国から認められて、集落周辺に故郷や代表者などの名前がつけられました。
代表者の名前がつけられる場合、幕末に藩主を務めていた人物の名前が多く用いられます。北海道に早くから開拓者として移住した人には失業した士族が多く、領主と一緒に移住して集落に元藩主の名前をつけていきました。
開拓者の出身地に由来する地名の例として以下のものが挙げられます。
- 白石(札幌市):仙台藩の白石城主に仕えていた人々が開拓したことに由来します。
- 北広島:広島県出身の人々が開拓したことに由来します。
- 伊達:亘理伊達家当主の「伊達邦成」らが開拓したことに由来します。
参照:白石 | 札幌市白石区
和田郁次郎 | きたひろ農学校
どうして「伊達市」になったの? | だてキッズ
日本語の単語
アイヌ語や開拓者の出身地と関係なく、日本語の単語を地名として用いたケースも存在します。由来もバラエティ豊富で、現地の建物や縁起の良さなど多くの理由から選ばれています。江戸時代からつけられている地名が比較的多く、明治以前の北海道の歴史を感じられるでしょう。
市町村名だけでなく街なかの地名にも日本語の単語が多く用いられます。街なかには「〇条〇丁目」のような地名も多いため、街なかではアイヌ語の地名を比較的見つけづらくなるかもしれません。
日本語の単語に由来する地名の例として以下のものが挙げられます。
- 函館:室町時代に築かれた箱形の館が「箱館」と呼ばれていたことに由来します。
- 千歳:鶴が多く飛来していたため、幕末に「鶴は千年」の故事から命名されました。
- 岩見沢:明治の開拓使が工事の休憩所として設けた「浴澤(ゆあみさわ)」に由来するとされます。
参照:地名の由来 | 函館市
由来 | 千歳市
地名の由来 | 岩見沢市
北海道の地名に多く使われるアイヌ語の単語
北海道に存在する地名の多くはアイヌ語に由来しています。アイヌ語のなかでも多く用いられる単語が複数あるため、頻出の単語を覚えておくと日本語の地名から元のアイヌ語を推測できるかもしれません。地名のルーツを知りたい場合に活用してみましょう。北海道の地名として多く使われるアイヌ語の単語の例を以下で紹介します。
ペッ(pet)
アイヌ語で「川」を意味する単語です。生活用水や食料などがまとめて手に入る川はアイヌの生活に欠かせない場所のため、道内各地の川沿いに多くのアイヌが暮らしていました。
アイヌ語由来の地名にも「ペッ」を含むものが非常に多くみられます。当て字は「別」が多く、「〇別」のような地名は現在でも道内全域で多数確認可能です。場合によっては「〇別」の形以外が用いられたり、「ペッ」が省略されたりする場合もあります。
「ペッ」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 紋別:「モペッ(静かな川)」に由来するとされます。
- 別海:「ペッカイエ(川が折れ曲がっている)」に由来するとされます。
- 標津:「シペッ(大きな川)」に由来するとされます。
参照:市名の由来 | 紋別市
町の概要 | 別海町
1.標津町の語源 | 標津町
ナイ(nay)
アイヌ語で「川」「沢」を意味する単語です。「ペッ」と同様に川を指す単語ですが、傾向として「ペッ」より小さな川を指すようです。当て字は「内」が中心です。川が大きくなりづらい山間部に多く、東北地方でも「〇内」のような地名や川が複数みられます。
ナイとペッの具体的な由来はわかっていません。それぞれ別の場所から外来語として伝わってきた単語という説もあります。
「ナイ」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 真駒内(札幌市):「マクオマナイ(背後にある川)」に由来するとされます。
- 岩内:「イワウナイ(硫黄の沢)」に由来するとされます。
- 幌加内:「ホロカナイ(逆戻りする沢)」に由来するとされます。
参照:真駒内(まこまない) | 広報さっぽろ
北海道にある岩内という町をご存じですか? | 岩宇
町名「ほろかない」の由来・起源 | 幌加内町
ト(to)
アイヌ語で「湖」「沼」を意味する単語です。「トー」と伸ばして表記する場合もあります。川と同様に生活用水や食料などを入手しやすい場所で、湖や沼自体に川が出入りしている場合も珍しくありません。アイヌの生活に広く活用されて、アイヌの神話に登場する湖も複数存在します。
「ト」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 茨戸(札幌市):「パラト(広い沼)」に由来するとされます。
- 苫小牧:「トマコマイ(山奥に入る沼の川)」に由来するとされます。
- 洞爺:「トヤ(湖の岸)」に由来するとされます。
参照:地名に残る、その地の歴史。 | 広報さっぽろ
トマコマイの語源 | 苫小牧市
歴史的・文化的特徴 | 林野庁
シリ(sir)
アイヌ語で「大地」「山」「島」を意味する単語です。アイヌ語で「山」を指す単語として「ヌプリ」も存在しますが、傾向としてほかの単語と組み合わせる場合に「シリ」が用いられたようです。山頂や山麓など山の場所を示す際に「ヌプリ」を、山の大きさや土地の場所などをつける際に「シリ」を用います。当て字は「尻」が多く用いられます。
「シリ」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 利尻:「リイシリ(高い島)」に由来するとされます。
- 奥尻:「イクシリ(向こうの島)」に由来するとされます。
- 知床:「シリエトク(大地の突き出たところ)」に由来するとされます。
参照:由来 | 利尻町
奥尻町の沿革と歴史 | 奥尻町
知床羅臼について | 知床羅臼町観光協会
ピラ(pira)
アイヌ語で「崖」を意味する単語です。当て字は「平」が多く用いられます。逆の意味の漢字ですが、古代には日本語でも傾斜地を「ヒラ」「ヒラサカ」などと呼んでいたとされます。現在でも沖縄では坂道を「ヒラ」と呼ぶ場合があり、古代からのつながりを感じられるでしょう。
「ピラ」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 豊平(札幌市):「トイェピラ(崩れた崖)」に由来するとされます。
- 赤平:「アカピラ(山稜の崖)」に由来するとされます。
- 平取:「ピラウトゥル(崖の間)」に由来するとされます。
参照:豊平 | 札幌市豊平区
名前の由来 | 赤平市
町の歴史 | 平取町
ウシ(us)
アイヌ語で「いつも~する」「~が多い」を意味する単語です。動植物の生息地を指して用いられる場合が多く、「usi」と発音して「いつも~するところ」の意味にするケースも多くみられます。当て字では「牛」が多く用いられますが、特に「us」の形ではほかの漢字があてられる場合も珍しくありません。
「ウシ」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 妹背牛:「モセウシ(イラクサが多いところ)」に由来するとされます。
- 美馬牛(美瑛町):「ピパウシ(カラス貝が多いところ)」に由来するとされます。
- 羅臼:「ラウシ(獣の骨があるところ)」に由来するとされます。
参照:市町村名の由来 | 北海道開発局
●美馬牛駅 | 北海道駅前観光案内所
町名の由来 | 羅臼町
ポロ(poro)
アイヌ語で「大きい」「大事な」を意味する単語です。当て字では「幌」が多く用いられて、読み方も「ほろ」となるケースが多くみられます。生活上重要な場所を指して用いられやすく、「ペッ」や「ナイ」と同じく北海道内で幅広く地名に用いられています。「ポロ」に対して「ポン」という単語もあり、「小さい」の意味です。
「ポロ」が使われる地名の例として以下のものが挙げられます。
- 美幌:「ピポロ(水が多く大きなところ)」に由来するとされます。
- 浦幌:「オーラポロ(川尻に大きな葉が育つところ)」に由来するとされます。
- 幌内(三笠市):「ポロナイ(大きな沢)」に由来するとされます。
参照:地名の由来 | 美幌町
地名の由来 | とかち晴れ
ホロナイ[三笠市幌内町幌内](北海道) | 千年村プロジェクト
まとめ
北海道の地名の主な由来と、多く用いられるアイヌ語の単語を紹介しました。アイヌ民族が北海道の豊かな自然から多くの地名をつけて、開拓に臨んだ和人も多くの地名をつけています。そのため北海道には日本全国でも珍しい経緯でつけられている地名が多く、地名一つでも「北海道」を強く感じられるでしょう。
多くの地名には何らかの由来があり、アイヌ語に漢字をあてた地名でもアイヌ語での意味があります。地名の由来がわかれば土地の歴史や特徴などもわかるかもしれません。身近な地名の由来を調べてみて、新しい面白さを発見してみてください。