自立支援医療制度とは?障害者が利用できる金銭面のサポートを紹介!
障害者は病院や薬局のような医療機関を利用する機会が多く、特に精神障害は治療が長引きやすいため医療費の面で負担が大きくなります。金銭的な負担が増えると生活上の不安要素になり、精神面に悪影響が及んで治療期間がさらに延びる可能性もあります。
障害者の医療費負担を軽減できる制度が「自立支援医療制度」です。医療費の自己負担額を軽減して、お金の心配をせず治療に専念できます。この記事では自立支援医療制度の概要や申請方法、メリット・デメリットなどを紹介します。
自立支援医療制度とは
自立支援医療制度は、障害の治療に求められる費用を一部公費から負担して医療費の自己負担額を抑えられる制度です。一般的に医療費は3割負担に抑えられていますが、自立支援医療制度を利用すると負担額を1割まで軽減できます。長期間の治療でも医療費の負担を抑えられるため、経済的な不安要素を減らして治療に集中可能です。
自立支援医療制度には以下の3種類があり、それぞれ異なる治療を要する人が対象です。
・精神通院医療
統合失調症やうつ病など、各種精神疾患を抱える人が対象です。通院による継続的な精神医療の必要性も条件に含まれます。
・更生医療
身体障害者のうち、障害の除去・軽減について治療による効果を期待できる人が対象です。18歳以上の年齢制限も設けられています。
・育成医療
身体障害児童のうち、障害の除去・軽減について治療による効果を期待できる児童が対象です。18歳未満の場合は育成医療に分類されます。
参照:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第五条 | e-GOV
対象になる疾患
自立支援医療制度を利用できる精神疾患として以下のものが当てはまります。主に精神障害と発達障害が幅広く該当しています。
- 病状性を含む器質性精神障害(認知症など)
- 精神作用物質使用による精神及び行動の障害(アルコール依存症など)
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 気分障害(うつ病など)
- てんかん
- 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(不安障害など)
- 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(摂食障害など)
- 成人の人格及び行動の障害(境界性パーソナリティ障害など)
- 精神遅滞(知的障害など)
- 心理的発達の障害(広汎性発達障害など)
- 小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(多動性障害など)
いずれの場合も病院や診療所で通院医療を受けている必要があります。「症状はほぼなくなっているが再発予防のために通院している」という場合も対象です。
利用者負担額の上限
自立支援医療制度を利用すると医療費の負担額を抑えられますが、利用者の所得区分によって負担額の上限が変わります。上限以上の医療費負担が不要になるため、自分の負担上限額がいくらか把握しておきましょう。所得区分ごとの利用者負担上限額は以下のとおりです。
・生活保護:負担なし
生活保護を受給している場合に該当します。
・低所得1:2,500円
市町村民税が非課税、かつ障害者本人や保護者の年収が80万円以下の場合に該当します。
・低所得2:5,000円
市町村民税が非課税、かつ障害者本人や保護者の年収が80万円より多い場合に該当します。
・市町村民税課税世帯:医療保険の負担限度額
市町村民税が課税されている場合に該当します。
市町村民税課税世帯であっても「高額治療継続」に該当した場合は別の負担上限額が設けられます。高額治療継続は「重度かつ継続」とも呼ばれる区分で、統合失調症・うつ病などの患者が該当します。高額治療継続に該当する場合の負担上限額は以下のとおりです。
市町村民税の金額 | 負担上限額 |
33,000円未満 | 5,000円 |
33,000円以上235,000円未満 | 10,000円 |
235,000円以上 | 20,000円 |
障害者手帳との違い
自立支援医療と同様に、障害者手帳も障害者が市町村役場に申請して取得するものです。特に精神障害者の場合は「精神障害者保健福祉手帳」「自立支援医療受給者証」の両方を取得しているケースが少なくありません。自立支援と障害者手帳はそれぞれ利用可能なサービスが異なります。違いを把握して、万一必要になっても慌てないようにしましょう。自立支援医療と障害者手帳の主な違いは以下のものです。
・医療費の負担額に上限が設けられる
自立支援医療制度を利用していると、指定した医療機関で支払う医療費の負担額に上限が設けられます。金銭的な不安を減らして治療に集中できます。精神障害者手帳を取得しても基本的に医療費は変化しませんが、精神障害1級と診断されていれば助成金が支給される場合もあります。
・本人確認書類として使用できる
障害者手帳は運転免許証やマイナンバーカードなどと同様に本人確認書類として使用できます。顔写真もついているため、健康保険証と比べても幅広く使用可能です。一方、自立支援医療受給者証は本人確認書類として使用できません。
・障害者割引が適用される
障害者手帳を取得していると一部のサービス利用料金が割引されます。NHKの受信料や所得税の控除などに加えて、地域や事業者によっては公共交通機関の割引制度が設けられている場合もあります。一方で自立支援医療を利用していても障害者割引は適用されません。
自立支援医療制度の利用申請方法
自立支援医療制度を利用するには役所への申請が必要です。必要書類をそろえて役所の保健福祉課で手続きを行いましょう。利用開始後の定期的な更新手続きも必要です。治療に専念するためにも、利用・更新についての知識は欠かせません。以下では自立支援医療制度の申請に必要な書類と更新について解説します。
申請に必要な書類
自立支援医療制度の申請には複数の書類が求められます。市町村によって異なる場合もありますが、札幌市においては以下の書類が必要です。
- 自立支援医療費(精神通院医療)支給認定申請書
- 自立支援医療(精神通院医療)用診断書
- 「世帯」の健康保険証
- 受診者の収入がわかる書類
- マイナンバーが確認できる書類
- 身元確認のできる書類
診断書は毎回必要になるものではなく、2年に1回求められます。治療方針が変更された場合にも必要です。提出する際は、受診先の病院で医師に診断書が必要な旨伝えて用意してもらいましょう。少し時間がかかる点に要注意です。
健康保険証や身元確認書類はマイナンバーの確認で省略できる場合もあります。役所の窓口で担当者に確認しましょう。
利用開始後の更新
自立支援医療の利用開始後は定期的な更新が必要です。自立支援医療受給者証は有効期間が1年と定められており、期間終了後も利用を続けるために受給者証を更新しなくてはなりません。基本的に期間終了の3ヶ月前から更新手続きが可能になるため、早めに手続きを済ませておきましょう。
更新手続きの際は医師からの診断書が求められますが、2年に1回は診断書提出を省略できます。逆に2年連続での省略はできないため、診断書提出を省略した年の翌年は忘れずに提出します。
なお、更新しないまま受給者証の有効期間が過ぎた場合は自立支援医療が利用できなくなります。もう一度新規申請する必要があるため、更新を忘れないように注意しましょう。
参照:自立支援医療(精神通院医療)について | 厚生労働省
自立支援医療(精神通院医療) | 札幌市
自立支援医療制度のメリット・デメリット
自立支援医療制度を利用すると複数のメリットを得られます。一方でデメリットも生じるため、両方の特徴を把握したうえで利用しましょう。この章では自立支援医療制度の主なメリット・デメリットを紹介します。
メリット
自立支援医療制度を利用するメリットは主に2つ挙げられます。
・医療費の負担を抑えられる
自立支援医療を利用すると、適用される医療費の負担額が少なくなります。治療に長い時間がかかる疾患も多く、治療を続けると徐々に医療費の負担が重くなっていきます。医療費が安くなると負担も軽くなるため、より長くじっくりと治療を続けられるようになります。
・就労支援施設を利用できる
自立支援医療を利用していれば各種就労支援施設も利用しやすくなります。就労支援施設を利用する際には自立支援医療の利用も求められます。自立支援医療から複数の社会復帰支援サービスに繋げられるでしょう。
デメリット
自立支援医療制度の利用には、メリットだけでなくデメリットも存在します。主なものは以下の2つです。
・特定の医療機関以外で利用できない
自立支援医療は指定した医療機関以外で利用できません。複数の病院・薬局を利用していても、指定していない医療機関での医療費は通常と同じです。医療機関の指定は申請時に行うため、自分が利用しやすい医療機関を決めておきましょう。
・受給者証の提示や更新を求められる
自立支援医療の利用には受給者証の提示が求められます。病院や薬局で都度提示しなくてはならないため、人によっては面倒と感じるかもしれません。定期的な更新も必要です。医師の診断書が必要になるため、早くからの準備が求められます。
自立支援医療制度で利用可能なサービス
自立支援医療制度を利用すると「障害福祉サービス受給者証」の取得が可能になり、受給者証を取得していれば複数の障害福祉サービスを利用できます。主に「就労継続支援事業所」と「就労移行支援事業所」があり、それぞれ異なる形の支援を受けられます。自立支援医療制度で利用できる2種類のサービスについて解説します。
なお、就労継続支援事業所や就労移行支援事業所などについてはこちらの記事一覧も参考にしてください。
就労継続支援事業所
就労継続支援事業所は障害者を対象とする就労サービスで、障害者に就労やスキルアップなどの機会を提供するものです。雇用契約を結ぶ「A型」と契約しない「B型」に分かれます。利用しながら賃金・工賃も受け取れるため、ある程度金銭面の負担を抑えられるでしょう。軽作業・清掃・データ入力など、事業所ごとに幅広い業務を扱っています。
就労継続支援事業所の利用にはサービス受給者証が必要です。また、自治体や事業所によっては自立支援医療受給者証、あるいは障害者手帳が必要になる場合もあります。就労継続支援事業所を利用する際は事前に確認しておきましょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は通所型の障害福祉サービスで、障害者が就労できるようスキルアップしたり就職活動のサポートを受けたりできるものです。体調管理やビジネススキルの習得など職業訓練を行い、就職活動時には書類作成や面接対策などのサポートを受けられます。就職後の職場定着サポートも実施しています。
就労移行支援事業所を利用する際は病気や障害を抱えている証明が必要です。基本的に障害者手帳が証明材料として用いられますが、自立支援医療受給者証でも証明可能です。なお、精神障害の場合は医師の診断書でも認められる場合があります。
まとめ
自立支援医療制度の概要や申請方法、メリット・デメリットなどを紹介しました。障害者が医療費の負担を軽減できる自立支援医療制度は、障害の治療に集中できる環境を整えてくれるサービスです。ほかの障害支援サービスにもつなげられるため、各サービスを活用して着実に社会復帰を目指せるでしょう。
自立支援医療は障害者が治療に集中できるよう設けられているサービスです。サービス利用中は積極的に心身を休めて、気張りすぎない程度に治療・社会復帰を目指して行動しましょう。