衛星測位システムとは?手元で活躍する宇宙からのサービスについて解説!

公開日:2024/08/23
衛星測位システムとは?手元で活躍する宇宙からのサービスについて解説!

スマートフォンの地図アプリやカーナビゲーションなど、現代は位置情報を利用するサービスが多く提供されています。自分の現在位置や動きなどを認識して、多くの便利な活用が可能です。
位置情報の取得は人工衛星を用いて行われています。地球を周回する多くの衛星による測位システムを「衛星測位システム」と呼び、遠い宇宙から身近な手元に各種サービスを提供するものです。この記事では衛星測位システムの概要や仕組み、活用される分野について解説します。

衛星測位システムとは

衛星測位システムは人工衛星により現在位置を計測するシステムで、「NSS(Navigation Satellite System)」とも呼ばれます。地球を周回する軌道上に測位用の人工衛星を打ち上げて、衛星から発信された信号を地上の端末で受信して利用するシステムです。衛星は受信端末だけでなく地上に設置された主制御局や監視局とも連絡を取り合っています。測位システムを問題なく運用できるように、地上から最新の航法メッセージを送り続けています。
一般的に、衛星測位システムに用いられる人工衛星は4機以上打ち上げられます。衛星とやり取りするデータには誤差が生じるため、利用する衛星の数を増やして誤差を修正する狙いがあります。例として、アメリカが運用する「GPS」は2024年時点で31機打ち上げられています。

参照:GPS Constellation | アメリカ沿岸警備隊

衛星測位システムの種類

衛星測位システムは人工衛星を投入する軌道によってカバーできる範囲が異なります。知名度の高い「GPS」以外にもさまざまなシステムが世界中で提供されており、将来的には民間企業によるシステムの提供も実現しえます。衛星測位システムの種類を以下で紹介します。

全地球航法衛星システム

全地球航法衛星システムは「GNSS(Global Navigation Satellite System)」とも呼ばれる衛星測位システムで、地球上全域をカバーしているシステムを指します。多数の人工衛星に地球を周回させて、地球上どこの地域にいても測位可能な体制を整えています。広範囲をカバーしている一方、特定範囲においては地形や地磁気などの影響で高精度を保ちづらい点がデメリットです。
2024年現在、世界では4種類の全地球航法衛星システムが運用されています。各システムと運用国は以下のとおりです。

  • GPS:アメリカ
  • GLONASS:ロシア
  • Galileo:EU
  • BeiDou(北斗):中国

地域航法衛星システム

地域航法衛星システムは「RNSS(Regional Navigation Satellite System)」とも呼ばれる衛星測位システムで、地球上のうちある程度限定された地域をカバーしているシステムを指します。対象地域周辺を8の字に周回する人工衛星で、範囲内であれば高精度な測位が可能です。全地球航法衛星システムを補完する目的でも活用されます。
2024年現在、世界では2種類の地域航法衛星システムが運用されています。各システムと運用国は以下のとおりです。

  • QZSS(みちびき):日本
  • NAVIC:インド

静止衛星型衛星航法補強システム

静止衛星型衛星航法補強システムは「SBAS(Satellite-Based Augmentation System)」とも呼ばれる、衛星測位システムの補助システムです。地球の自転と同じ速度で周回する静止衛星を利用して、地球上を飛ぶ航空機に測位データの補強信号を送ります。航空機の飛行経路を決めるには現在位置の正確な把握が重要になるため、SBASによる高精度な測位データが大いに役立ちます。
2024年現在、世界では4種類の静止衛星型衛星航法補強システムが運用されています。各システムと運用国は以下のとおりです。

  • WAAS:アメリカ
  • MSAS:日本
  • EGNOS:EU
  • GAGAN:インド

「スターリンク」について

人工衛星を用いる通信サービスとして「スターリンク」も挙げられます。スターリンクはスペースX社が提供しているインターネットサービスです。比較的低高度を周回する多数の通信衛星を介して、地球上各地でインターネット接続を行えます。衛星のカバー範囲内かつ空が開けている場所ならばどこでも利用できるため、離島・海上や災害の被災地などでも活用されています。
スターリンクは人工衛星を用いたインターネットサービスであり、端末の位置情報を計測する衛星測位システムとは異なるものです。しかし、スターリンクの衛星を利用して位置情報の計測も可能であるという実験結果も出ています。将来的には、民間企業による衛星測位システムが提供されるようになるかもしれません。

参照:Starlink公式サイト

測位方法

衛星測位システムは受信機で複数機の人工衛星から信号を受け取る仕組みで、使用する受信機の数によって「単独測位」と「相対測位」に分けられます。それぞれ使い勝手や精度に差があるため、場面によって使い分けられる方法です。衛星測位システムの測位方法2種類について、以下で詳しく解説します。

単独測位

4機以上の測位衛星と1台の受信機で位置情報を取得する方法です。各衛星の位置や信号送信時刻などを受け取って、発信~受信の所要時間から衛星と受信機の距離を求めます。各衛星までの距離と誤差が生じる時間をもとに、受信機がある地点の座標を計算できます。
単独測位は受信機が1つだけで実施できる測位方法ですが、比較的誤差が生じやすいデメリットもあります。そのため高い正確性が求められる用途ではなく、スマートフォンの位置情報やカーナビゲーションなどに活用されています。

相対測位

4機以上の測位衛星と2台以上の受信機で位置情報を取得する方法です。衛星が発信した信号を複数の受信機で受け取り、所要時間の差から受信機同士の相対的な位置関係を求めます。各受信機での測位方法によって「DGNSS方式」と「RTK方式」に分類可能です。RTK方式は、さらに「スタティック法」「キネマティック法」などの方式に細分化されています。
受信機を複数使って誤差を除去できるため、単独測位以上に高い精度での測位が可能です。特にRTK方式は誤差を数cmまで抑えられます。建築や測量など、非常に厳密な位置情報が求められる場面で用いられる測位方法です。

衛星測位システムが活用される分野

衛星測位システムは幅広い分野で活用されており、今後さらに活用範囲が広がるとみられます。一見宇宙との通信が関係なさそうな分野でも役立つため、自分に関係のある分野や興味がある分野について調べておきましょう。この章では衛星測位システムが活用される主な分野を紹介します。

物流

物流業界において衛星測位システムを活用する企業が増加しています。荷物やトラックなどの位置情報を把握して、安全性や効率性の高い配送を実現します。需要の増加と人材の不足が問題になっている物流業界にとって、衛星測位システムによる配送業務の効率化は欠かせません。
衛星測位システムは倉庫内でも役立ちます。商品の位置や在庫を瞬時に把握できるため、ピッキングや在庫整理などに要する人手と時間を節約できます。受信機によっては温度や衝撃なども取得できるため、倉庫内での商品管理状態も同時に把握可能です。

娯楽・スポーツ

衛星測位システムは娯楽やスポーツの分野でも活用されています。
近年では衛星測位システムによる位置情報を利用したゲームが多数販売・運営されており、プレイヤーが自分の足で移動しつつゲームを楽しめます。世界的なブームを引き起こしたゲームもあり、非常に多くの人が衛星測位システムを楽しんだとも考えられるでしょう。
スポーツ分野ではウェアラブル端末を用いた衛星測位システムの利用が広まっています。アスリートのトレーニング内容や試合中の動きなどを記録して、より効果的なアスリート育成につなげられます。ゴルフのように地形が重要なスポーツでは、端末にコースの地図や各種情報を表示してプレーに活用できます。

自動運転

衛星測位システムを活用して、自家用車やバスなどの自動運転技術が研究されています。車両の位置情報を取得して目的地までのルートを選び出し、周囲を監視するレーダーやカメラと組み合わせて自動運転を実現します。霧や雪などで視認性が悪い道路でも問題なく走行できるように研究・実験が進行中です。
衛星測位システムを利用する自動運転技術は自動車以外の分野でも利用されています。非常に早くから自動運転システムが導入された航空機分野では、衛星測位システムを用いて空港内での移動から離着陸まで自動化されています。船舶の分野でも自動化が進められており、安全性・効率性を高めた航行が実現しようとしています。

ドローン制御

近年さまざまな分野で活躍しているドローンの制御にも衛星測位システムが活用されています。衛星測位システムを利用可能なドローンは飛行中に人工衛星からの信号を受信します。衛星からの信号で自分の位置情報を取得しているため、風が吹く野外でも同じ位置を保ったままの飛行が可能です。
衛星測位システムを利用できるドローンのなかでも、RTK方式の測位が可能なドローンであれば特に高精度な自立飛行を行えます。測量や農薬散布のような細かい位置調整が求められる業務に利用可能です。

土木工事

土木工事の分野でも衛星測位システムが活用されるようになっています。特に測量業務で多く活躍しており、衛星測位システムを使わない測量と比べて早く正確な測量が可能です。人工衛星から発信されたデータを使うため、高層ビルが多い都市部でも大きな誤差が生じづらくなります。衛星測位システム自体の精密性とあわさって、衛星測位システムによる測量は誤差を非常に小さな範囲まで抑えられます。
測量のほか、掘削現場での埋設物検知にも衛星測位システムが用いられます。埋設物の位置を示した地図をタブレット端末に表示して、衛星測位システムと組み合わせて重機の埋設物接近を把握できるものです。工事の効率を落とさずに安全性を保ったまま作業できます。

災害対策

衛星測位システムは各種災害への対策にも活躍します。全国各地に設けられた観測基準点で地殻変動による位置のずれを把握して、地殻変動の研究に役立てられます。地震や火山活動のような地殻変動をともなう災害への防災・減災につながる研究です。
災害発生時の情報送信にも衛星測位システムが活用されます。全国の管制局から人工衛星を経由して、街灯やカーナビゲーションなど電気がある設備・移動体に災害情報を発信させます。通信しづらい山間部や被災して通信が途絶した地域でも災害情報の迅速な伝達が可能です。

農業

農業も衛星測位システムの活用分野です。測位データをもとにトラクターの自動運転を行い、農作業の負担軽減や効率化が行われています。トラクターが自動で最適な経路を走行してくれるため、作業地点の重複や運転手の負担増加などを防止可能です。短時間での高精度な農作業が可能になり、就農者の高齢化や人手不足も解決を図れます。
高精度な衛星測位システムを用いると垂直方向の測位精度も上がるため、水田の均平度も計測できるようになります。均平度は稲の均一な生育にかかわる要素であり、安定して多くの収量を得るために均平度の維持が欠かせません。衛星測位システムは農産物の収量増加にも大きくかかわります。

まとめ

衛星測位システムの概要や仕組み、活用される分野について解説しました。人工衛星を用いて位置情報を取得できる衛星測位システムは、地上だけではできない多くのことを実現可能にします。今後世界各国だけでなく民間企業でもシステムの拡充が進むとみられます。これまで以上に衛星測位システムの手軽な利用が可能になり、利便性や安全性の高い生活を提供してくれるでしょう。
現在、地球の周りでは衛星測位システム用を含めて非常に多くの人工衛星が飛び回っています。肉眼で見られるものもあるため、遠くとも近い宇宙や未来を夢見てみましょう。