スーパーコンピュータとはどのようなもの?活用場面とあわせて紹介!
現代ではパソコンやスマートフォンのようなコンピュータが日常的に用いられています。個人や一般的な企業などで使用できるコンピュータは大きさや性能に限りがありますが、世界には非常に大きく高性能なコンピュータも多数存在します。「スーパーコンピュータ」と呼ばれるコンピュータで、複雑な計算処理が求められる高度な作業に用いられます。この記事ではスーパーコンピュータの概要や活用場面などを紹介します。
スーパーコンピュータとは
スーパーコンピュータは非常に高性能なコンピュータのことで、一般的に購入可能なパソコンよりはるかに高い性能を持ちます。略して「スパコン」とも呼ばれます。ハードウェアやアルゴリズムなどに多くの工夫がなされており、通常のパソコンでは非常に時間がかかる処理でも短時間で進められる点が強みです。
社会に公開されて広く利用されているものも多く、商品開発から将来の気候変動予測まで多彩な分野で活躍しています。しかし運用には広い空間や膨大な電力などが求められるため、基本的に大学・研究機関・大企業などが管理・運用しています。
構造
スーパーコンピュータは一般的なパソコンと比べて、非常に多くのCPUを効率的に動作させています。スーパーコンピュータもパソコンも、CPU・メモリ・ストレージを使う基本的な構造は変わりません。一般的なパソコンはCPUが1つしか搭載されていない一方で、多くのスーパーコンピュータは多数のCPUを搭載しています。各CPUがそれぞれ別の計算を担当できるため、一度に多くの処理を進められます。多くのCPUを搭載するコンピュータ同士をさらに複数台接続して、非常に速い計算処理を実現しています。
処理速度を高速のまま保てるように、CPUの数以外の工夫も重要です。ソフトウェアの面では、処理を分割して計算しやすくするアルゴリズムが採用されています。多数のCPUによる並列処理能力を最大限に生かせるような工夫がなされます。ハードウェアの面では、電源や冷却システムもパソコンと異なります。CPUが消費する電力を最適化させたり、発熱するコンピュータを十分に冷やしたりできるよう設備が整えられています。
スカラ型とベクトル型
スーパーコンピュータの計算方法には「スカラ型」と「ベクトル型」の2種類が存在します。両計算方法の特徴は以下のとおりです。
・スカラ型
一般的なコンピュータに近い方式です。汎用的なCPUを多数搭載して処理能力の向上につなげます。2024年現在では世界的に主流の方式で、多数の細かい計算が得意分野です。コストパフォーマンスの高さもスカラ型のメリットとして挙げられます。
・ベクトル型
専用のCPUを使用する方式です。「ベクトル型プロセッサ」と呼ばれるCPUによって、1枚のCPUで多くのデータをまとめて処理します。海水の循環や飛行機の空力など大規模な計算に適しています。CPU1枚あたりの処理速度ではスカラ型より高速です。
利用方法
スーパーコンピュータを利用するには、基本的に「高度情報科学技術研究機構(RIST)」への申請が必要です。RISTではスーパーコンピュータで処理するさまざまな課題を募集しており、応募された課題から採択して許可を出しています。課題への応募は大学・研究機関・企業に所属している必要があります。一般的な立場からの利用はできないため注意しましょう。
申請から利用終了までの流れは以下のとおりです。
・利用申請
RISTが募集している課題に応募して、スーパーコンピュータ利用を申請します。
・手続き
申請した課題が採択されたら必要な手続きを行います。主にアカウントの発行が必要です。
・利用開始
実際にスーパーコンピュータを利用します。利用料金は課題の種類によって有料・無料が異なりますが、多くの課題は無料で利用可能です。RISTから各種の利用支援も受けられます。
・利用終了
課題の終了後は報告書を提出して、課題によっては成果公開や発表などを行います。
歴史
スーパーコンピュータは1960年代に生まれて以降、急速に進化を続けています。
世界初の商用スーパーコンピュータは1964年にアメリカで作られた「CDC6600」とされます。処理速度は現代のパソコンより遅かったものの、当時としては画期的な速さでした。約10年後の1975年には「CRAY-1」が開発されます。以降CRAYシリーズが次々に開発されていき、1980年代を中心に活躍しました。
1980年代後半になると、日本生まれのスーパーコンピュータが大きく発展していきます。1983年に生まれた「VP-200」を皮切りに次々と開発されていき、1989年には「SX-3」が世界最速のスーパーコンピュータとなりました。日本製スーパーコンピュータの時代は1990年代まで続き、2000年代に入ると一度下火になります。
低迷状態が続いていた日本のスーパーコンピュータですが、2011年に「京」が開発されて再び世界最速の座を奪還しました。スーパーコンピュータの計算速度ランキング「TOP500」で、京が1位に記録されています。名前も1秒間に1京回計算できる性能から付けられたものです。近年では、10年後の2021年に生まれた「富岳」もTOP500にて世界最速記録を残しています。
参照:スーパーコンピュータの歴史 | 「経営と情報」に関する教材と意見
次世代スーパーコンピュータとは 次世代スーパーコンピュータとは そして、何ができるようになるか | 理化学研究所 情報基盤センター
世界のスーパーコンピュータの発展と日本の取組み | 一般社団法人 HPCIコンソーシアム
京速コンピュータ「京」が世界1位に | 富士通
スーパーコンピュータ「富岳」について
2024年現在、日本最速のスーパーコンピュータとして「富岳」が活用されています。2021年に本格運用が始まって、当初は世界最速記録を保持していました。現在はアメリカやイタリアのスーパーコンピュータ5機種に抜かれて世界6位のランキングになっていますが、依然世界トップクラスの性能を発揮しています。
富岳の大きな特徴として「普通に使える」点が挙げられます。富岳は開発段階から使いやすさを重視しており、専用のプログラムが必要ありません。一般的なソフトウェアを使用できるため、専門知識がなくとも幅広く活用できます。「富岳」という名前は公募で決められており、富岳=富士山の裾野のように広い範囲のユーザーが使えるよう命名されました。
2020年から新型コロナウィルスが流行し始めた際には、富岳を用いて飛沫感染のシミュレーションが行われています。当時の富岳は未完成ながら、マスクの有無による飛沫の飛び方や有効なマスクの素材などの研究・周知に活躍しました。
参照:世界最高の成果を目指すスーパーコンピュータ「富岳」は 「普通」なのに高性能 | 理化学研究所 計算科学研究センター
スーパーコンピュータ「富岳」の概要 | 神戸市
「富岳」について知りたい5つのこと | 神戸医療産業都市
スーパーコンピュータの活用場面
非常に高い計算処理能力を持つスーパーコンピュータは、世界中で幅広い分野に活用されています。身近な商品の開発から大規模な災害への対策まで多種多彩です。スーパーコンピュータが活躍している場面を調べてみましょう。以下ではスーパーコンピュータが活用される場面の例を紹介します。
商品開発
スーパーコンピュータはさまざまな商品の開発に役立ちます。大きな活用分野として素材開発が挙げられます。物質を構成する原子や電子などの動きをシミュレートして、目的に最適な材料を探しやすくなります。優れた新素材を開発できれば、新商品の質的向上も図りやすくなるでしょう。
素材開発以外に空力シミュレーションも重要な活用分野です。自動車や飛行機などが動くときに受ける空気抵抗や揚力などを計算します。速度や風向きなどを問わず安定して走行・飛行できるような構造の設計に役立ちます。スーパーコンピュータ上でのシミュレートにより構造設計をスムーズに行えるため、素材開発と同様新商品の開発に貢献します。
金融取引
金融取引の分野でもスーパーコンピュータが活用されています。金融取引の際には多数のデータがリアルタイムに高速でやり取りされます。刻々と変化する価格を予想したりすぐ対応したりできるように、スーパーコンピュータによる高速計算が用いられます。特に金融取引のデジタル化が進む近年では、扱うデータ量の増加が問題視されるようになりました。金融業界全体でもデータ処理の問題を解決すべく、スーパーコンピュータの活用とデータ処理性能の向上が求められています。
宇宙開発
宇宙開発もスーパーコンピュータが活躍している分野です。ロケットの設計から宇宙の構造研究まで、宇宙に関するさまざまな要素の研究・開発にスーパーコンピュータが用いられています。
ロケット設計での活用例として、打ち上げ時に発生する音の大きさを予測する例が挙げられます。ロケットを打ち上げる際はすさまじい轟音が発生するため、ロケットに搭載されている人工衛星が轟音で故障する可能性もあります。発生する音の大きさ予測や音を抑えられる構造などの研究にスーパーコンピュータが用いられます。
宇宙の構造研究においては、宇宙の始まりを予測したり星の一生を分析したりと多方面にスーパーコンピュータが使用されます。非常に大規模なテーマのため、求められる計算処理も多大です。果てしない分野の研究にスーパーコンピュータの頭脳が役立っています。
気象予測
地球上の気象変化を予測する目的でもスーパーコンピュータが使用されます。主に気象の予測と気候変動の研究が挙げられます。
コンピュータを用いた気象の予測は1950年代から世界各地で行われてきており、地球全体の大気を多数の格子に細分化して計算しています。格子を細かく分ければ詳細な予測が可能になりますが、同時に発生する計算量の増加へと対応しなくてはなりません。スーパーコンピュータの計算能力を利用して、格子の細分化と膨大な計算処理を可能にしています。
参照:気象予測とスパコン | 理化学研究所 計算科学研究機構
気候変動の研究にもスーパーコンピュータが活用されています。気温・海水温の変化や海氷の生成・移動・消滅、植生の変化などさまざまなデータをモデル化して研究に役立てます。非常に多くの要素が絡み合う地球環境をシミュレートするために、スーパーコンピュータを用いて多数の計算処理をこなします。世界中で気候が急速に変化している現代において重要な研究です。
災害対策
スーパーコンピュータはさまざまな自然災害への対策にも活用されます。日本は大昔から地震や台風などの災害が多く、近年では線状降水帯による集中豪雨のような災害も増加しています。各種災害の発生や生じる被害などをスーパーコンピュータで予測して、対策設備の整備や地域住民の迅速な避難などにつなげます。
災害対策の一環として、スーパーコンピュータを災害発生時にレンタルできる体制も整備されています。スーパーコンピュータは非常に高価なため、災害対策用としての購入・運用は難しいという問題がありました。すでに運用されているスーパーコンピュータを必要時にレンタルできれば、コストを最小限に抑えつつ被害の予測が可能になります。適切なタイミングで適切な行動をとれるように、スーパーコンピュータの能力が求められています。
参照:スパコンをリアルタイムで活用し津波被害推計 NECがつなげたシステムが全国に拡大中 | NEC
スーパーコンピュータの将来
急速に進化を続けてきたスーパーコンピュータは、今後さらに高性能化を続けるとみられます。2024年現在で「富岳」以上の速さで計算できるスーパーコンピュータが複数国で5機開発されており、ほかの機種も開発が進んでいます。日本でも富岳より高性能なスーパーコンピュータの開発を進めているため、将来的には世界中の優秀なスーパーコンピュータが活躍しているでしょう。
一方で、現在とはまったく異なる形のコンピュータが活躍している可能性もあります。現在の形のコンピュータは高性能化が難しくなりつつあり、新たな形のコンピュータとして「量子コンピュータ」が研究されています。すべて量子コンピュータに代替されるとは限らず、スーパーコンピュータと連携して効率的な計算を実現するとみられます。すでに国産量子コンピュータ「叡」と富岳との連携利用が実証されており、遠くない未来に新たな形のスーパーコンピュータによる恩恵を受けられるかもしれません。
量子コンピュータについてはこちらの記事も参考にしてください。
参照:スーパーコンピュータ「富岳」と量子コンピュータ「叡」の連携利用を実証 | 理化学研究所
まとめ
スーパーコンピュータの概要や活用場面などを紹介しました。非常に高性能なコンピュータであるスーパーコンピュータは、急速に進化しつつ幅広い分野で活躍してきました。今後も進化したりほかのコンピュータと連携したりしつつ、便利で安全な社会に貢献してくれるでしょう。
AI技術が目覚ましく発展している現代では、スーパーコンピュータによるAI開発も行われています。AI開発用のスーパーコンピュータも作られており、発展速度は加速し続けるでしょう。AIの発展とあわせて、スーパーコンピュータによるより便利な社会を想像してみてください。