就労継続支援A型はどうしてできたのか?~その歴史を振り返る~
就労継続支援A型の存在を知ってはいても、どのようにして就労継続支援A型ができたのかを理解し、説明できる人は少ないのではないでしょうか。そこでこの記事では、障害者福祉施策の歴史を振り返って就労継続支援A型ができるまでの軌跡を確認し、就労継続支援A型はどうしてできたのかについて解説します。
まずは言葉の意味を知ろう~就労継続支援A型事業所とは~
ここでは、就労継続支援A型事業所のことを知らない人に向けて、言葉の意味について解説します。
まず就労継続支援とは、企業などでの一般就労に不安を持つ障害や難病を持つ人が、ある一定の支援を受けながら仕事につくことができる福祉サービスのことを指します。
就労継続支援にはA型事業所とB型事業所がありますが、ここではA型事業所について主に説明していきます。
就労継続支援A型の対象者
障害や難病を抱えていて、一般企業などで働くことは難しいが、ある程度の支援を受ければ雇用契約を結んで働くことが可能な人
就労継続支援A型の利用条件
- 移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった者
- 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった者
- 就労経験のある者で、現に雇用関係の状態にない者
就労継続支援A型を利用できる年齢
年齢に関しては、原則18歳以上65歳未満の人がA型事業所で働けますが、条件を満たせば18歳未満でも働けます。さらに、同じく条件が揃っていれば65歳以上の人も継続して利用することが可能です。
就労継続支援A型を利用するのに障害者手帳は必要か
精神障害者や知的障害者が就労継続支援A型事業所を利用しようとするとき、自治体にもよりますが、障害者手帳は基本的には必要ありません。ただし、身体障害者の場合は障害者手帳が必要な場合が多いです。
障害者手帳が無い場合、就労継続支援A型事業所を利用するには自立支援医療受給者証や医師の意見書などの書類を提出する必要があります。
就労継続支援A型の仕事内容
- 軽作業
- データ入力などパソコンを使った作業
- 清掃
- 飲食店のホールスタッフ
など、仕事内容は多岐にわたります。
A型事業所とB型事業所の違い
- A型事業所は雇用契約を結ぶので最低賃金が保証されるが、B型事業所は雇用契約を結ばないので賃金ではなく工賃が支払われる。
- A型事業所は週5日程度の勤務が一般的。B型事業所は自分が通える日数だけ通うというのが一般的。
- A型事業所はB型事業所に比べて事業所の数が少ない。
就労継続支援A型ができるまで~その歴史を振り返る~
これまでは、現在の就労継続支援A型について解説しました。ここからは、いよいよ就労継続支援A型ができるまでの歴史を振り返って、その軌跡について見ていきます。
1970年代以前
日本での障害者福祉施策は、戦後の復興と同時に始まりました。当初、障害者へのサポートは家族による保護や支援が中心で、障害者の労働や雇用に関する支援は限られていました。1960年に制定された身体障害者雇用促進法では、民間事業所に従業員の1.3%の身体障害者の雇用を「義務」ではなく「努力目標」として要請しました。
また、1969年3月に愛知県名古屋市に知的障害者のための施設である「ゆたか作業所」ができたことから、作業所の歴史が始まりました。作業所とは障害者が働く場所のことを指しますが、最初は「障害者が働くのは無理」「障害者はかわいそう」と世の中の大半の人たちが思っている、そんな状態だったそうです。
1970年代~1980年代
1970年代には、障害者の社会的自立を促進することを目的として福祉工場が設立され始めました。福祉工場とは、作業能力や働く意欲があるにも関わらず、一般企業で働くことが難しい障害者を対象にした職場のことです。福祉工場が増えたことにより、障害者にとって安心して働ける場が提供されましたが、一般就労への移行は困難な状況が続きました。
そんな中、1976年には身体障害者雇用促進法の抜本的改正が行われ、身体障害者の雇用が事業主の義務となり、民間企業の法定雇用率も1.5%に強化されました。
1987年には身体障害者雇用促進法が「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改称され、「障害者」の範囲が広がり、知的障害者も法の適用対象となりました。
1990年代
1990年代に入ると、社会的弱者を特別視しない「ノーマライゼーション」という考え方が広がり、障害者であろうと健常者であろうと関係なく誰もが社会の一員として共に生活し働くことこそが重要とされるようになりました。
2006年
2006年には、精神障害者が障害者雇用促進法の適用対象となりました。このことにより、身体・知的・精神すべての障害者が法の適用対象になったことになります。
また、ノーマライゼーション社会の実現を目指して障害者自立支援法が施行されました。この法律は、障害者が地域で自立して社会生活が送れるように必要な支援を行うことを目的としていました。それまで身体・知的・精神という障害の種類により福祉サービスの差があったのですが、それらを共通の制度にまとめて仕組みを一元化しました。
障害者自立支援法の施行により、就労継続支援の福祉サービスが誕生しました。その中でも、就労継続支援A型は、一般企業に近い環境で障害者のスキルアップのために必要な訓練を行う場です。それまであった福祉工場や授産施設、作業所などの福祉サービスは新サービスに移行されました。今でも〇〇作業所というような名前の施設をたまに見かけることがありますが、そのほとんどは障害者自立支援法ができる以前から事業を行う事業所であり、以前の制度の名残なのです。
就労継続支援A型はどうしてできた?
いわゆる「作業所」の狙いは軽作業を通して障害者の「社会参加」や「日常生活のリズムを整えること」でした。多くの障害者のニーズである「経済的な自立」を達成するために、より雇用に近い形での障害者のサポートを目的にしてできた制度が就労継続支援A型です。
作業所や福祉工場では役割として不十分だった点を、就労継続支援A型は補いながら、また自ら発展しながら存在していると言えます。
2013年以降
2013年には、障害者自立支援法が改正され、新しく障害者総合支援法という名前で施行されました。この改正により、身体障害者・知的障害者・精神障害者の他に難病患者なども支援の対象となりました。そして2022年には、就労継続支援A型をはじめとする福祉サービスの運用が強化され、さらにきめ細やかで多様な支援が得られるようになりました。具体的には、就労選択支援の創設や職業指導の実施が図られました。
参照:
ゆたか福祉会とは | 社会福祉法人ゆたか福祉会 (yutakahonbu.com)
障害者雇用法制度 (asai-hiroshi.jp)
・知的障害者福祉工場の設置及び運営について(◆昭和60年05月21日発児第104号) (mhlw.go.jp)
ノーマライゼーションの意味とは?厚生労働省の理念や事例を紹介 | あしたの人事オンライン (ashita-team.com)
障害者福祉:障害者自立支援法のあらまし|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律について|厚生労働省
障害者総合支援法等の改正について|厚生労働省
就労継続支援A型のこれからについて
就労継続支援A型に関する事柄の歴史について解説してきました。2006年から始まった就労継続支援A型は、これからまだまだ発展していくことでしょう。そのためには、障害者個々のニーズに応えるための制度の柔軟性や、さらなる職業訓練の強化、就労継続支援A型が社会に認知されるための取り組みの工夫など、努力できることが多々あります。障害者と社会全体が手を取り合って、より良い就労継続支援の仕組みを作り出し、双方が気持ちよく生活していけるようになったらそこが就労継続支援A型の歴史のゴールと言えるのかもしれません。
就労継続支援事業所についての記事は他にもあります。もっと知りたい場合は、こちらのまとめ記事も参考にしてみてください。