量子コンピュータとは?社会を変えうる未来のコンピュータを紹介!

公開日:2024/10/11
量子コンピュータとは?社会を変えうる未来のコンピュータを紹介!

現代の社会ではさまざまな場面でコンピュータが用いられています。高速で計算処理を行い多くのものを作ったり動かしたりするコンピュータは生活に欠かせない存在となりました。
コンピュータの発展は現在も続いており、将来的には「量子コンピュータ」と呼ばれる別種のコンピュータが生まれるとされます。量子コンピュータは従来のコンピュータ以上に速い処理が可能ですが、得意分野や実現までの壁など注意点も複数存在します。未来技術の一つとして名が挙げられる量子コンピュータについて、今から知識を得ておきましょう。この記事では量子コンピュータについて、古典コンピュータとの違い・種類・メリットなどを紹介します。

量子コンピュータとは

量子コンピュータは、原子や電子など「量子」と呼ばれるものの性質を利用するコンピュータです。量子は非常に小さいため身近な物理法則に従わず、「量子力学」と呼ばれる分野の法則に従って動きます。量子力学を応用してコンピュータを作り、「古典コンピュータ」と呼ばれる従来型のコンピュータ以上に速く動作するコンピュータの実現を狙います。
量子の性質を利用する量子コンピュータの仕組みやアルゴリズムは古典コンピュータと大きく異なります。そのため、特徴や活用場面にも古典コンピュータと必ずしも一致しません。社会で広く利用されるまでは遠い道のりですが、次の時代に欠かせない最新技術として世界中で研究開発が進められています。

量子コンピュータと古典コンピュータとの違い

量子コンピュータと従来の古典コンピュータは異なる原理で動きます。両コンピュータの大きな違いとして、扱う情報単位の違いが挙げられます。
古典コンピュータが使用している情報単位は「ビット」と呼ばれる単位です。1ビットは0か1かのどちらかだけを示します。多量の「トランジスタ」と呼ばれるスイッチを用いて0と1を多数並べて、組み合わせに応じてデータの計算・表示などを行います。同じ範囲内に多くのトランジスタが並んでいると多くの処理が可能になるため、古典コンピュータの性能はトランジスタの小ささが重要です。現代はトランジスタが非常に小型化されており、近いうちにトランジスタの大きさが原子1つ分まで小さくなるとみられます。原子1つ分より小さなトランジスタは作れないため、古典コンピュータの性能的進歩が難しくなるとみられます。
一方、量子コンピュータは「量子ビット」と呼ばれる情報単位を使用します。量子ビットはビットと異なり0と1を同時に示す特徴があります。1ビットで0と1を同時に扱えると少ないビット数で多くの組み合わせを作れるため、古典コンピュータより非常に速い処理が可能です。処理速度が高速であれば複雑な処理も短時間で行えるようになり、作業の高速化につながります。

量子コンピュータは古典コンピュータを超える?

量子コンピュータに対する一般的な勘違いとして「量子コンピュータは従来のコンピュータを超えて置き換わる」というものがあります。実際には、量子コンピュータが発達しても従来の古典コンピュータを完全には代替できません。量子コンピュータで古典コンピュータより速く処理できるとみられる問題は非常に限られます。また、分野によっては量子コンピュータが処理速度で劣るケースもあります。
量子コンピュータの実用化後も古典コンピュータは消えず、量子コンピュータが古典コンピュータの苦手分野を補完する立ち位置になるとみられています。計算量が非常に多い処理で量子コンピュータが、比較的単純な処理で古典コンピュータが活躍していきます。2種類のコンピュータが共存して、人間の生活を力強く支えてくれるでしょう。

量子コンピュータの種類

量子コンピュータは処理の方式によって大きく「量子ゲート方式」「量子アニーリング方式」の2種類に分けられます。より多く研究が進められているのは量子ゲート方式ですが、量子アニーリング方式はすでに商品化もされている方式です。量子コンピュータの種類について以下で詳しく解説します。

量子ゲート方式

比較的古典コンピュータに近い処理方式で、量子ビットに対して各種の量子ゲート=操作を適用して処理を行います。早くから研究が進められてきた方式であり、現在でも世界中で多くの企業や研究機関が研究を続けています。
量子ゲート方式は使用する量子ビットの種類によってさらに複数方式に分けられます。主な方式は以下のとおりです。

・超伝導方式
超伝導リングに流れる電流の向きでビットを表現します。扱いやすく世界中で積極的に研究されている方式ですが、極低温の環境を求められる点がデメリットです。

・イオントラップ方式
真空中に浮かせたイオンをビットとして扱います。量子の状態を長時間保存できる方式ですが扱いが難しく、研究しているチームは世界でも少数にとどまります。

・光量子方式
光回路上で明滅する光パルスをビットとして扱います。冷蔵や真空などが不要なため扱いやすい方式で、課題点だった大きさの問題も解決しつつあります。

・シリコン方式
シリコン半導体内の電子を回転させてビットを表現します。既存の半導体技術を応用して開発できる方式ですが、原材料を調達しづらい点が課題です。

・トポロジカル方式
「トポロジカル絶縁体」という表面だけに電気が流れる物質に存在するとされる「マヨラナ粒子」をビットとして扱います。実機が制作されていませんが、実現できれば非常に優秀な性能を発揮するとみられています。

量子アニーリング方式

特定の課題に特化して超高速で解を導く方式です。アニーリングは「焼きなまし」という金属の熱処理方法の事で、焼きなまし処理に近い処理を量子で行います。自然の力で最少のエネルギー状態を探索して、最も効率的な組み合わせを探すために役立ちます。
主に「巡回サラリーマン問題」と呼ばれる組み合わせ最適化問題の解決に活用されます。1998年に提唱された理論をもとに2011年商品化されました。分野は限られますが、得意分野の問題であれば非常に速く処理できます。各種の解決すべき問題を組み合わせ最適化問題に落とし込めれば、量子アニーリング方式の量子コンピュータで解決しやすくなるとみられます。

量子コンピュータのメリット

従来の古典コンピュータと異なる方式で動作する量子コンピュータは、量子コンピュータならではのメリットを複数持っています。なかでも大きなメリットが2つあり、どちらも量子コンピュータの活躍範囲と社会への貢献を強めてくれる要素です。量子コンピュータの主なメリットを以下で紹介します。

処理能力が高い

量子コンピュータの特に大きなメリットとして処理能力の高さが挙げられます。膨大な量の計算が求められる処理の場合、古典コンピュータと異なり複数の計算を並行して非常に速く進められます。古典コンピュータでは時間がかかり過ぎて解けなかった問題も、量子コンピュータならば解けるものが増えるでしょう。
多くの問題を速く解けるようになると幅広い分野で応用できるようになります。新薬の開発や効率的な交通ルートの選択など、量子コンピュータの貢献が社会生活を多方面から便利にしてくれるかもしれません。

必要電力が小さい

必要な電力の小ささも量子コンピュータのメリットです。古典コンピュータは複雑な処理を行うと多くの電力が必要になり、発熱量も増えるため冷却の電力も追加で求められます。量子コンピュータは処理にともなうエネルギー消費が非常に小さく、冷却装置の使用により発熱もさらに抑えられます。冷却装置の使用電力を加えても量子コンピュータの必要電力は古典コンピュータより非常に少量です。量子コンピュータを実用化させて電力効率の良い計算が可能になるでしょう。活用できる場面も広がります。

量子コンピュータ実現への壁

実用化されればより良い暮らしに大きく貢献してくれる量子コンピュータですが、現状では実現までに複数の大きな壁があります。実現への壁は性能面だけでなくセキュリティの面でも存在しており、世界中で壁を乗り越えるべく多方面から研究が進められています。量子コンピュータ実現のために乗り越えるべき主な壁を以下で紹介します。

十分な量子ビット数の達成

量子コンピュータを実用化するうえで、必要な量子ビット数を達していない問題があります。量子ビットは外部からの刺激でエラーが発生しやすく、搭載されている量子ビットをすべて併用する処理ができません。ある程度の量子ビットをエラーの訂正用に回す必要があります。古典コンピュータ以上の性能を発揮できる量子ビットにエラー訂正分を加えると膨大な数が求められるため、素材やデザインなどの面で改良が必要です。
2021年にIBM社が発表した超伝導量子コンピュータは127量子ビット搭載しています。しかし、エラー訂正を含めて十分な性能を持っている量子コンピュータの実現には約100万量子ビットが必要とされます。超伝導量子コンピュータの量子ビット集積度は毎年指数関数的に増加していますが、依然として実用化までは時間がかかるとみられます。

熱流入問題

極低温環境の維持が求められる超伝導量子コンピュータの場合、性能の向上につれて「熱流入問題」が大きな壁になるとみられています。超伝導量子コンピュータは量子コンピュータチップを冷凍機で冷やす必要がありますが、コンピュータの性能を上げるためにはチップを大きくしなくてはなりません。チップが大きくなると冷凍機内外をつなぐ金属製のケーブルも増えるため、多数のケーブルから冷凍機外の熱が冷凍機内に多く侵入していきます。冷凍機内をうまく冷やせなくなり量子コンピュータの性能を十分に発揮できなくなる、という問題です。
チップの大きさそのものも問題です。コンピュータの高性能化にともないチップが大きくなるとチップを冷やす冷凍機も大型化していき、十分な大きさの冷凍機を用意できなくなります。超伝導量子コンピュータ以外の方式であれば熱に関する問題は起こりづらいため、今後の研究によっては超伝導以外の方式が主流になるかもしれません。

セキュリティ対策

量子コンピュータの実現によって従来のセキュリティが突破される危険性もあります。
現代はインターネット上でメール通信・クレジットカード決済・国家機密などさまざまな通信を行っています。多くの通信は「RSA暗号」と呼ばれる暗号化技術を用いてセキュリティを守っていますが、量子コンピュータはRSA暗号を容易に解読するとみられています。RSA暗号によるセキュリティが突破されると各種通信が非常に悪用されやすくなるため、量子コンピュータの実用化前に対策しなくてはなりません。
量子コンピュータに対するセキュリティ対策として「対量子計算機暗号」の開発・標準化が進められています。対量子計算機暗号には主に「格子式暗号化」や「同種写像暗号」などが該当します。量子コンピュータがより早く社会に貢献できるように、悪用防止のセキュリティ対策も早期の整備が不可欠です。

量子コンピュータの活躍が予想される場面

量子コンピュータは従来の古典コンピュータと比べて活躍できる分野は広くありませんが、得意な分野であれば非常に高い処理能力を発揮してくれます。ビジネスや研究開発など、量子コンピュータを生かせる分野・場面が複数予想されています。いずれも量子コンピュータにより大きな進歩や発展が期待できる分野です。量子コンピュータが活躍すると予想されている主な分野を以下で紹介します。

金融

量子コンピュータは金融の分野で大いに活躍するとみられています。金融市場への投資先を選ぶ際は考えるべき変動要素が非常に多いため、人力での勘や目利きが中心に用いられてきました。量子コンピュータを用いるとより正確なシミュレーションが可能になり、安全性の高い投資が可能になります。ローリスク・ハイリターンな投資先の組み合わせを探す「ポートフォリオ最適化」のように、量子コンピュータが得意な業務で生かせるでしょう。
金融業界では生成AIの導入も積極的に進められており、事務作業の簡便化やプランニング業務の補佐などを中心に活用されています。量子コンピュータの高速処理でデータを集めやすくなると、生成AIによる作業やアドバイスの精度向上も可能になります。量子コンピュータと生成AIが相乗効果を発揮して、金融分野での大活躍が期待できるでしょう。

生成AIについてはこちらの記事も参照してください。

化学

原子の動きを扱う化学分野でも量子コンピュータが活躍するとされます。原子はミクロの世界で高速移動や反応を繰り返すため、シミュレーションに膨大な量の計算が必要です。量子コンピュータを使うとシミュレーションに求められる計算を非常に速く進められて、原子や分子の反応を的確に予測できます。各種の化学製品や医薬品など、化学反応で作られる製品の開発が急速に進むでしょう。
高精度の量子コンピュータが実用化されると、食糧生産を大幅に改善できる可能性もあります。現在肥料製造に用いられているハーバー・ボッシュ法は高温高圧の環境が求められるため、肥料製造に多くのエネルギーが要求されています。ハーバー・ボッシュ法に代わって常温常圧での効率的な肥料製造が可能になれば、消費エネルギーを抑えつつの肥料製造が可能です。世界中でより多くの食糧生産につなげられるでしょう。

自動運転

自動車の自動運転分野でも量子コンピュータが役立ちます。非常に多くの組み合わせから短時間で最適解を導ける量子コンピュータは、自動運転車の走行ルートを決めるために利用できます。自動車の走行ルートを分析して、交差点に設けられている信号機を効率よく制御するものです。信号待ちによる停車が少なくなれば渋滞の発生も抑えられるため、より快適な移動が可能になるでしょう。
自動運転分野で用いられる量子コンピュータは量子アニーリング方式が中心です。すでに世界各地で自動車メーカーと量子コンピュータ開発企業が共同で実証実験を行っており、より効率的な自動運転技術の確立を目指しています。量子コンピュータの力を借りて、便利かつ快適に移動できる時代が近づいています。

AI

世界中で急速に発展しているAI(人工知能)は、量子コンピュータの活用によりさらに進歩すると考えられます。
量子コンピュータを使用すると「量子機械学習」と呼ばれる新たな学習技術を使用できるようになります。量子機械学習は量子コンピュータにおいて問題になるノイズの影響を受けづらく、場合によってはプラスになることもある学習技術です。量子ゲート方式の量子コンピュータに含まれる「NISQ」に量子機械学習が適しており、NISQコンピュータの登場とともに量子機械学習も注目されました。
発達したAIを効率的に活用したい場合、AIを動作させる高性能なコンピュータが必要です。量子機械学習で高度に発達したAIを量子コンピュータで動作させれば、古典コンピュータのAIと比べて大幅に高い性能の発揮が期待できます。これまで解決できなかった問題の解決にも役立てられるでしょう。

まとめ

量子コンピュータについて、古典コンピュータとの違い・種類・メリットなどを紹介しました。現状は実現まで長い道のりを残す量子コンピュータですが、実現できればさまざまな分野で大きな進歩が期待できます。種類によっては商用化もされている技術であり、長くともいずれ実現して社会の助けになってくれるでしょう。
量子コンピュータは得意分野が限られています。そのため、一人に一台程度まで幅広く普及する可能性は高くありません。量子コンピュータの実用化以降も従来の古典コンピュータは広く利用され続けると考えられます。今から身近なコンピュータに一層慣れ親しんで、量子コンピュータの時代でも両者を幅広く活用できるように努めましょう。